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犬の膝蓋骨脱臼の治療法について┃様々な術式を併用して行う

病院コラム 2024.08.27

以前の記事で、犬の膝蓋骨脱臼という病気について解説しましたが、今回はその治療法に焦点を当ててお伝えします。
犬の膝蓋骨脱臼について

膝蓋骨脱臼は犬に多い膝の関節の病気で、一般的にパテラとも呼ばれます。脱臼の程度はグレード1〜4に分類されますが、同じグレードであっても症状がある子とない子がいたり、グレードが高いからといって日常生活に必ずしも支障をきたすわけではありません。動物病院では、触診やレントゲンなどの画像検査で膝の状態を確認し、治療方針を決定します。治療方法にはいくつかの選択肢があり、それぞれにメリット・デメリットがあるため、獣医師と相談しながら最適な治療法を選ぶことが大切です。

■目次
1.手術による治療の選択肢
2.手術の流れと入院期間
3.術後のケアと回復
4.手術の成功率と長期予後
5.手術以外の治療法との比較
6.まとめ

 

手術による治療の選択肢


グレードⅠで症状が見られない場合は、保存的治療を推奨しますが、グレードⅡ以上の場合は通常、手術による治療が基本となります。ただし、グレードⅡ以上でも痛みなどの症状がなく、手術が難しい事情がある場合や、脱臼が稀で症状が軽い場合には、体重管理や痛み止めの処方などの保存的治療を選択することもあります。

■膝蓋骨脱臼の重症度分類

グレード 状態
膝蓋骨を触診で簡単に外すことができるものの、手を離すと元の位置に戻る。
膝の曲げ伸ばしだけで膝蓋骨が外れる。
膝蓋骨が常に外れている状態だが、手で押すと元の位置に戻る。
膝蓋骨が常に外れている状態で、手で押しても元の位置に戻らない。

 

膝蓋骨脱臼の手術法は以下の通りです。

滑車溝造溝術:滑車溝という大腿骨の膝側にあるくぼみを削り、通常よりも深くすることで、手術後に再び脱臼が起こりにくくします。
外側関節包および外側支帯の縫縮術:膝関節を包む膜状の構造物である関節包を切開し、膝蓋骨を正常な位置に戻した後に縫い縮め、正しい位置に固定します。また、膝蓋骨を外側から引っ張る外側支帯を縫い縮めて、ズレを修正します。
縫工筋転移術:膝蓋骨を内側に引っ張る縫工筋を切り離し、内側へのズレを防ぎます。
脛骨粗面転移術:膝蓋骨を支える靭帯が付着する脛骨粗面を移動・固定し、脱臼を整復します。

当院では、主にこれらの術式を組み合わせて治療を行っています。

手術では膝蓋骨を正常な位置に戻すだけでなく、再発を防ぐような工夫もできるので、根本的な解決が期待できます。ただし、手術には出血や感染、骨折の再発などのリスクがあるため、飼い主様と十分に相談した上で実施を検討します。
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手術の流れと入院期間


術前

術前には関節の状態を確認するだけでなく、血液検査で内臓の機能を、レントゲンや超音波で全身の状態を確認することで、手術によるリスクを判断します。

手術当日

手術当日は絶食した状態でご来院いただき、健康状態に問題がなければ予定通り手術を行います。

術後

術後は5日程度入院していただき、痛みや傷口をケアします。元気や食欲があり、腫れが引いて歩けるようになっていれば、退院してご自宅で様子をみていただくことになります。術後は痛みを抑えるために、痛み止めを処方します。

 

術後のケアと回復


術後のリハビリテーションは、運動機能の回復に欠かせません。ただし、手術直後は関節がまだ安定していないため、ケージレストによる安静を必須としています。

退院してご自宅に戻った後は、すぐに運動を開始せず、ケージの中で静かに過ごしていただきます。特に脛骨粗面転移術を行った場合は、十分な安静期間が必要です。

 

手術の成功率と長期予後


手術の成功率は、膝蓋骨脱臼のグレードによって異なります。ある研究では、グレードⅡの脱臼では100%でよい結果であったのに対し、グレードⅢでは11%、グレードⅣでは36%が膝蓋骨脱臼を再発したとも報告されています。

再発を防ぐために、上記の方法以外の術式を組み合わせ、その子に合った組み合わせを選択しています。

 

手術以外の治療法との比較


手術以外の選択肢としては、保存療法(薬物治療、運動制限など)があります。保存療法には手術を避けられるというメリットがありますが、根本的な治療にはならず、症状が悪化するリスクもあります

手術と保存療法のどちらを選べばよいのか迷う場合、脱臼の重症度(グレード)を基準に判断します。一般的に、グレードⅠでは保存療法、グレードⅡ以上では手術を検討しますが、痛みがない場合や他の病気がある場合は、保存療法を選択することもあります。

 

まとめ


膝蓋骨脱臼は、グレードが悪化するにつれて術後の再発率が上昇するともいわれているので、早期発見・早期治療が重要です。歩く様子に変化があればご自身で判断せず、整形外科を得意とする獣医師までご相談ください。

当院では整形外科を得意とする獣医師が所属しているため、より専門的なアドバイスが可能です。治療について不安な点があれば、お気軽にご相談ください。

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