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犬の僧帽弁閉鎖不全症|心雑音から始まる正しい診断と治療選択で愛犬の心臓を守る

病院コラム 2025.10.22

シニア期に入ると、犬はさまざまな病気のリスクが高まります。その中でも特に多いのが「僧帽弁閉鎖不全症」という心臓病です。

「最近咳が増えた」「散歩を嫌がるようになった」といった変化は、加齢とともに起こりうるサインのひとつです。診察では心雑音が手がかりになりますが、心雑音=即投薬ではなく、まずは正確な検査で病気の進行度を把握することが大切です。

今回は、犬の僧帽弁閉鎖不全症の基礎知識から診断・治療の流れ、日常生活での注意点まで解説します。

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■目次
1.犬の僧帽弁閉鎖不全症とは|高齢犬に多い心臓病
2.心雑音=薬ではない|まずは正確な診察と検査が大切
3.治療の選択肢|内科治療と外科治療
4.日常生活で気をつけたいポイント
5.まとめ

 

犬の僧帽弁閉鎖不全症とは|高齢犬に多い心臓病


僧帽弁閉鎖不全症とは、心臓の左心房と左心室の間にある僧帽弁がうまく閉じなくなることで、血液が逆流してしまう病気です。この逆流によって心臓に余分な負担がかかり、少しずつ心臓の機能が低下していきます。

特に小型犬シニア期に入った犬で多く見られる加齢性の心臓病であり、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルチワワマルチーズなどが代表的な好発犬種です。

初期段階ではほとんど症状がなく、気づきにくいのが特徴です。
しかし進行すると、次のようなサインが現れます。

乾いた咳が増える
疲れやすくなる
散歩や遊びを嫌がる

さらに病気が進むと、以下のような深刻な症状につながることもあります。

湿った咳
呼吸が苦しそうになる(呼吸困難・息切れ)
急に倒れて失神する
舌や粘膜が紫色になる(チアノーゼ)

僧帽弁閉鎖不全症は加齢とともに発症することが多く、予防が難しい病気です。だからこそ、早期発見と病期に応じた適切な管理が、愛犬の生活の質を守るうえで何より大切になります。

 

心雑音=薬ではない|まずは正確な診察と検査が大切


犬の僧帽弁閉鎖不全症では「収縮期駆出性雑音」と呼ばれる特徴的な心雑音が聴診で確認されることがあります。しかし、心雑音があるからといって、すぐに薬が必要になるわけではありません

心雑音はあくまで「心臓に異常があるかもしれない」というサインのひとつであり、病気の有無や重症度、治療の開始時期を判断するには追加の検査が欠かせません。実際には、十分な検査をせずに薬だけ処方されているケースも見受けられますが、これでは正しい治療判断につながりません。まずは病態を正確に把握することが先決です。

当院では、診察から各種検査までを丁寧に行い、総合的に判断します。

▼診察(問診・聴診・触診など)
生活状況や症状を伺い、聴診や体のチェックで健康状態を把握します。

▼心エコー検査
逆流の有無や程度、弁の形、心臓の動きをリアルタイムで確認します。

▼胸部レントゲン
心臓の大きさや形、肺の状態を評価します。

▼心電図
心拍のリズムや不整脈の有無を調べ、心臓の働きを詳しく確認します。

▼血圧測定・血液検査
全身の状態や合併症の有無をチェックします。

これらの結果をもとに、投薬の必要性・タイミング・治療法を決定します。つまり、心雑音が見つかった段階では「薬を飲むべきかどうか」を決めるのではなく、正確な検査を経て適切な治療方針を立てることが大切です。

 

治療の選択肢|内科治療と外科治療


犬の僧帽弁閉鎖不全症の治療には、大きく分けて「内科治療(投薬)」と「外科治療(手術)」の2つの方法があります。

内科治療(投薬)

強心剤血管拡張薬などを使い、心臓への負担を和らげるのが内科治療です。これにより咳や呼吸のしづらさを軽減し、病気の進行を遅らせながら生活の質を維持することが目的となります。
ただし、投薬だけで病気を根本的に治すことはできません。あくまで「うまくコントロールして長く付き合う」治療であることを理解しておく必要があります。

外科治療(僧帽弁形成術)

僧帽弁の形を修復して逆流を改善する、唯一の根本的な治療法が外科治療です。成功すれば心臓への負担を大幅に減らすことができます。

一方で、

適応となるのは中等度以上に進行した症例であること
手術には高度な技術と専門設備が必要で、実施できる施設は限られていること
麻酔や術後管理を含めて一定のリスクがあること

といった点に注意が必要です。外科治療を検討する際は、愛犬の体調や合併症の有無、生活の質まで含めて慎重に判断することが大切です。

 

日常生活で気をつけたいポイント


僧帽弁閉鎖不全症と診断されたあとは、日常の管理がとても大切になります。ちょっとした工夫が、愛犬の心臓への負担を減らすことにつながります。

段階的な運動制限

元気で症状が出ていないうちは、無理に運動を制限する必要はありません。
ただし病気が進んでくると、散歩で息切れしたり咳が増えたりすることがあります。その場合は散歩の時間を短くする、坂道や激しい運動を避けるなど、徐々に運動量を調整してあげましょう。

食事管理

食事の工夫も重要なポイントです。塩分(ナトリウム)は血圧や血液量を増やし、心臓に余分な負担をかけてしまいます。
「塩分を控える → 血圧や血液量の上昇を防ぐ → 心臓への負担を軽くする」という流れを意識し、人の食べ物をあげるのは控えましょう。

温度変化に注意

暑すぎる・寒すぎるといった極端な気温差は心臓に負担となります。エアコンや暖房を活用し、室温を一定に保つことを心がけましょう。

落ち着いた環境づくり

遊びや来客などで愛犬が過度に興奮すると、心臓に余計な負担がかかることがあります。できるだけ興奮させないように、静かに安心して過ごせる環境を整えてあげることも大切です。

毎日のチェック

日々の観察で体調の変化にいち早く気づけるように備えましょう。

毎日同じ条件で体重を量る(急な増加は体に水がたまっているサインのことも)
安静時の呼吸数を毎日数える(1分間で40回以上が続く場合は注意)
咳の回数が増えていないかを確認する
舌の色をチェックする(いつもより紫色で苦しそうなときは緊急性が高い)

こうした習慣が、悪化のサインを早く見つける助けになります。

ただし、何をどこまで制限・工夫するかは病期によって異なります。愛犬の状態に合わせた管理を行うためにも、必ず獣医師の指示を受けながら調整してください。

 

まとめ


犬の僧帽弁閉鎖不全症はシニア期の小型犬に多い、完治が難しい加齢性の心臓病です。予防が難しい病気だからこそ、早期発見と段階に応じた適切な管理が何より重要になります。

「心雑音を指摘されたが詳しい検査はしていない」「薬を飲んでいるけど症状が改善しない」といったケースでは、まず正確な検査を受けて病態をきちんと把握することから始めましょう。

検査結果に基づいて治療を選択し、食事や生活環境を工夫することで、愛犬の負担を減らし、穏やかな毎日をできる限り長く守ることにつながります。気になる症状があれば、ぜひ一度ご相談ください。

 

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