胸腺腫
症例の概要
前縦隔に腫瘍がみられるレントゲン画像
胸腺腫とは前縦隔(胸の中心部にある空間)に発生する胸腺上皮細胞由来の腫瘍です。胸腺はリンパ球の成熟させる働きをもつ臓器で、通常は成長とともに退縮します。胸腺腫の多くは良性腫瘍ですが、腫瘍が大きくなると周りの臓器や血管を圧迫し、呼吸障害や循環障害などの症状がみられることがあります。胸腺腫は腫瘍随伴症候群がみられることが知られており、重症筋無力症や剥奪性皮膚炎、高カルシウム血症などがあります。
経過および検査
CT画像(冠状面)
犬 MIX 去勢雄 10歳
既往歴に僧帽弁閉鎖不全症があり、心臓の定期健診の際のレントゲン検査にて偶発的に前縦隔腫瘍を認めました。一般状態は良好であり、血液検査、心電図検査なども異常ありませんでした。CT検査から前縦隔腫瘍は4㎝大で、造影パターンより胸腺腫を疑いました。内胸動静脈、大動脈に浸潤はみられず、胸腔内のリンパ節の腫大も認められませんでした。細胞診を試みましたが、腫瘍が深く針が届かなかったため断念しました。
CT画像(矢状面)
治療
腫瘍を取り出した術創
胸腺腫の治療は外科手術が第一選択とされています。しかし、手術方法としては胸骨正中切開という大きく胸を開く方法をとることが一般的です。この方法は手術による体への負担が大きく、痛みも強いです。そのため、今回は胸腔鏡を使用した切除手術を行いました。3か所のポート孔(それぞれ約1cm)から手術器具とカメラを挿入し、腫瘍を切除しました。3か所のうち2か所のポート孔を繋げて腫瘍を取り出し、ドレーンを設置後に閉創しました。今回の手術では切開創が約4cmと1cmの2か所のみであり、最小限の負担で手術を行うことができました。翌日にはドレーンを抜去し、食欲もあるため退院、一週間後には抜糸をしました。病理検査から腫瘍は胸腺腫(タイプB3)と診断されました。
病理検査の結果
この動画は手術が終わった30分後の様子です。手術直後とは思えない元気さで立ち上がっています。胸腔鏡手術の侵襲の小ささがよくわかります。
獣医師のコメント
摘出された腫瘍
動画:胸腔鏡で撮影した手術の映像
今回の症例では、胸腔鏡を用いた胸腺腫の切除を行いました。胸腔鏡での手術はとても高度な技術を要し、設備も大掛かりなものとなりますが、骨を切ることもなくアプローチできるため、痛みは少なく、術後の回復も早いことからとても有用です。さらにカメラによって撮影された視野を全員で確認しながら手術ができるため、チーム医療としての一体感があります。オーナーの方々にも普段自分たちが手術中にみている画面をお見せできるため、よりわかりやすいインフォームが行えます。