犬の肺高血圧症とは|突然倒れる・失神する症状に潜む循環器の異常を獣医師が解説
病院コラム 2025.11.18
急に倒れた、息が荒い、痙攣のような動きをした…
そんな愛犬の姿を目の当たりにしたら、飼い主様としては不安を感じられるかと思います。
こうした症状はてんかんなどの神経の病気を疑われがちですが、実は心臓や肺の異常が関係していることもあります。なかでも「肺高血圧症」は、初期には症状がほとんど見られず、気づかないうちに進行する病気です。重症化すると呼吸困難や失神を引き起こし、命に関わることもあります。
今回は、犬の肺高血圧症について、症状の特徴・診断の流れ・ご家庭での観察ポイントを獣医師が解説します。

■目次
1.肺高血圧症とは|肺の血圧が上がることで起こる循環障害
2.症状の特徴と見分け方|てんかんとの違いにも注意
3.診断の流れ
4.治療と日常管理
5.まとめ
肺高血圧症とは|肺の血圧が上がることで起こる循環障害
「肺高血圧症」とは、名前の通り、肺動脈の血圧が慢性的に高くなる病態です。
心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をしていますが、肺の血管が狭くなったり、血の流れが滞ったりすると、送り出すたびに大きな力が必要になります。その状態が続くと心臓が疲れてしまい、やがて右心不全となりさまざまな症状を引き起こします。
この病気は、中高齢の小型犬に多くみられます。特に、同じく小型犬に多い「僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)」という心臓の病気がきっかけとなって起こるケースが少なくありません。
肺高血圧症は、原因によって大きく2つのタイプに分けられます。
・一次性(特発性):原因がはっきりしないタイプ
・二次性:他の病気が引き金になるタイプ
二次性の肺高血圧症の原因としては、以下のような病気が挙げられます。
・僧帽弁閉鎖不全症などの心臓の病気
・気管虚脱などの慢性的な呼吸器疾患
・肺の血管が詰まる肺血栓塞栓症
・犬糸状虫症(フィラリア症)
このように、肺高血圧症はさまざまな病気が関係して起こるため「どの病気が原因なのか」を見極めることがとても重要です。原因を正確に突き止めることで、その子に合った治療方針を立てることができます。
症状の特徴と見分け方|てんかんとの違いにも注意
肺高血圧症の初期は、ほとんど症状が見られず気づきにくいのが特徴です。
元気そうに見えても、少しずつ心臓に負担がかかっていることがあり、進行してくると、次のような変化が見られるようになります。
・運動したがらない、散歩の途中で立ち止まることが増えた
・以前より疲れやすくなった、すぐ息切れする
・呼吸が速い・浅い
・突然倒れる、気を失う(失神)
・痙攣のような動きをする
・お腹がふくらむ(腹水がたまる)
こうしたサインが見られた場合は、心臓や肺の働きに異常があるサインかもしれません。
なかでも「突然倒れる」「痙攣する」といった症状は、てんかんなどの神経の病気と見分けがつきにくいことがあります。しかし、よく観察すると次のような違いがあります。
・てんかん:意識を失ったあともしばらくぼんやりしていて、全身が硬直したり泡を吹いたりすることが多い
・肺高血圧症:倒れてもすぐに意識が戻ることが多く、運動中や興奮した直後に起こりやすい
この違いを正確に判断するためには、発作の様子を動画で記録しておくことがとても役立ちます。診察の際にその映像を見せていただくことで、神経の病気か心臓・肺の病気かをより正確に判断することにつながります。
いずれの場合も、少しでも「おかしいな」と感じたら早めに相談していただくことが、愛犬の命を守る第一歩です。
診断の流れ
肺高血圧症が疑われるとき、診断では「なぜ起きているのか」を丁寧に探っていきます。同じように倒れる・痙攣する症状でも、心臓が原因の場合と神経が原因の場合では、対応がまったく異なるためです。
まずは問診で、日常生活の様子や発作のタイミングを詳しく伺います。
「どんなときに起きたか」「どのくらいの時間続いたか」「そのあとどんな様子だったか」など、飼い主様の記憶や動画が大切な手がかりになります。
その後、以下のような検査を組み合わせて、原因を慎重に見極めます。
・身体検査(聴診):心臓の音や呼吸のリズムを確認し、異常な雑音がないかを調べます
・心エコー検査:心臓の動きや血液の流れ、肺動脈の圧力などを詳しく観察します
・胸部レントゲン検査:心臓や肺の大きさ・形の変化を確認します
<心エコー検査で分かること>
肺高血圧症の犬では、右心室が拡張し、心室中隔が平たく押しつぶされたように見える(扁平化)ことがあります。また、左心室が細く見える(狭小化)所見も、右心系に強い圧力がかかっているサインです。


さらに「三尖弁(さんせんべん)」という右心室と右心房の間にある弁を通る血液の逆流(逆流速度)を測定し、肺動脈の圧力を推定します。
肺高血圧症では、肺の血管に強い圧力がかかることで右心室から血液を送り出す力(=右心室圧)が高くなります。右心室圧は肺動脈圧とほぼ同じため、三尖弁からの逆流速度を測ることで肺動脈の圧力を間接的に知ることができるのです。
実際には肺動脈の圧を直接測るにはカテーテル検査が必要ですが、動物医療では体への負担が大きいため、心エコーで得られる三尖弁逆流の速度(例:4.0m/sなど)から肺動脈圧を間接的に評価するのが一般的です。

これらの結果をもとに、必要に応じて神経学的検査も行い、てんかんなどの神経疾患との区別をつけていきます。当院では、心臓だけでなく全身の状態を総合的に評価し、その子にとって最善の治療につなげることを大切にしています。
治療と日常管理
肺高血圧症の治療は「今ある症状を和らげること」と「これ以上悪化させないこと」の両立がポイントです。多くの場合、お薬による内科的治療を中心に行い、必要に応じて原因となる病気(僧帽弁閉鎖不全症やフィラリア症など)の治療も並行して進めます。
使われるお薬には、心臓の負担を軽くするものや、体内の余分な水分を排出して呼吸を楽にするものなどがあります。それぞれの状態に合わせて、効果と副作用のバランスを見ながら調整していきます。
<日常管理のポイント>
ご家庭では、次のようなケアがとても大切です。
・安静と環境づくり
無理な運動は避け、リラックスして過ごせる環境を整えましょう。
寒暖差の大きい季節は、室温の管理にも気を配ってあげてください。
・呼吸数のモニタリング
ご自宅で安静時の呼吸を1分間数えてみましょう。
30回以上が続く場合は、病気の悪化のサインかもしれません。スマートフォンのアプリや記録シートを使って、毎日の変化を記録しておくのがおすすめです。
当院では、定期的な検査とご家庭での観察を組み合わせた「二人三脚の管理」を行っています。「少し息が荒い」「いつもより元気がない」など、小さな違和感でも構いませんので、不安なときはどうぞお気軽にご相談ください。その“気づき”が、早期発見・早期対応につながります。
まとめ
犬の肺高血圧症は、突然倒れる・息が荒い・失神するなどの深刻な症状を引き起こすことがある病気です。特に中高齢の小型犬では、心臓や肺の病気を背景に起こるケースが少なくありません。
見た目は一時的に元気を取り戻しても、その裏では心臓に大きな負担がかかっていることもあります。だからこそ「年齢のせいかな」と見過ごさず、早めに検査を受けて原因を確かめることが大切です。
当院では、心臓と神経の両面から丁寧に検査を行い、その子にとって最も安心できる治療と生活管理を一緒に考えていきます。もし愛犬に気になる変化が見られたら、どうぞお気軽にご相談ください。
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