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犬の前十字靭帯断裂について│治療には手術が必要

病院コラム 2023.11.27

前十字靭帯断裂は犬で比較的多くみられ、膝の安定性が損なわれ患肢に体重をかけることができなくなってしまう整形疾患のことです。
人ではスポーツ選手で起こるイメージがありますが、犬は肥満が原因で膝への負荷が増えることや、加齢により靭帯が変性して弱くなること、膝蓋骨脱臼による靭帯への異常な負荷などが挙げられます。治療は手術により膝関節を再度安定化させてあげることが必要になります。
今回は、そんな犬の前十字靭帯断裂についてご紹介します。

■目次
1.原因
2.症状
3.診断方法
4.治療方法
5.予防法やご家庭での注意点
6.まとめ

 

原因


前十字靭帯断裂には、強い外力が原因で起こる「急性」と、部分的な断裂が徐々に進行する「慢性」があり、犬のほとんどは慢性です

慢性の前十字靭帯断裂は、加齢により靭帯の強度が弱ることや、何らかの理由で膝に負荷が与えられ続けることが原因で起こると考えられています。
膝への負荷を強める要因には、肥満の犬や小型犬などで多い膝蓋骨脱臼、滑りやすい床での生活などが挙げられます。
また、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症、糖尿病などといった基礎疾患を持つ犬でも発生しやすいと考えられています。
犬種を問わず発生しますが、年齢としては中高齢での発生が多い傾向にあります。

急性の前十字靭帯断裂は、激しい運動や交通事故、落下事故などで発生すると言われています。

 

症状


前十字靭帯が断裂すると膝の安定性が損なわれるため、靭帯が断裂した足が地面から上がったままになる、地面に足がついていても体重をかけられないなどの様子がみられます。
また、歩きたがらず、歩いても後ろ足をかばって歩くような状態になり、座るときは断裂した足を伸ばしたような、左右非対称の座り方をします。

また、部分的な断裂の場合は、強い症状が出ず飼い主様からみれば痛がっているようには見えないかもしれませんが、関節炎をかばっている可能性があります。そのまま症状に気付かず適切な治療がなされないと、はじめは部分的な断裂であっても、完全な断裂まで進行したり、変形性関節症を発症したりと重症化する危険性があります

さらに、前十字靭帯は加齢とともに変性するため、両側の靭帯が脆くなります。片足を庇っているうちに反対足が断裂してしまうことがよくあり、片側が断裂した症例の50%は反対側も断裂すると言われています。

 

診断方法


まずは飼い主様からの情報をもとに、歩き方や座り方の確認を行い、その後身体検査で筋肉の萎縮の有無や膝関節の内側の腫れ(medial butress)を確認します。

また、整形外科的検査として脛骨前方引き出し試験、脛骨圧迫試験を行います。その際クリック音の有無も確認し半月板の損傷がないか確認していきます。

その後にレントゲン検査で膝関節のズレや関節炎の有無、関節液の貯留の有無を確認し診断します。
脱力した状況でないと判断できないこともあるため、痛がって暴れてしまう子や、怖がりな子には鎮静処置を行います

 

治療方法


前十字靭帯断裂の治療では、手術にて膝関節を安定させことが必要です。手術方法は複数あり、施設ごとに異なります。

当院では、「脛骨高平部水平骨切り術(TPLO)」を主に採用しています。この手術は、脛骨の一部を骨切りし、膝関節を作り変えることで安定化させる方法です。この方法では関節構造自体が変化するため、術後の必要な安静期間は最小限に抑えられ、数日で跛行(正常な歩行ができない状態のこと)が消失し、歩けるようになります

また関節に糸をかけて関節制動を行う「ラテラルスーチャー法」という術式もあり、治療成績が良く広く行われていますが、自己組織による膝関節の安定化が必要なため長期間の術後安静が必要です。

なお、ラテラルスーチャー法による治療は、当院では小型犬でのみ行っております。

 

予防法やご家庭での注意点


犬の前十字靭帯断裂はほとんどが慢性断裂です。このため、膝への負担が強まる原因を除くことが予防につながるでしょう。

具体的に、普段からおやつの食べすぎには注意して、適度な運動で肥満を予防しましょう。また、滑りやすい床にはマットを敷くことや足裏の毛はこまめにカットして、愛犬が滑って膝に負担をかけないよう気をつけましょう。

加えて、膝蓋骨脱臼がある子や片足の前十字靭帯が断裂した子は、時間が経つともう片足も断裂することが多いため、歩き方がおかしいと感じたら様子をみず、早めに動物病院で受診することをお勧めします。

 

まとめ


前十字靭帯断裂は、加齢とともに弱った靭帯が肥満や滑りやすい床などで膝にストレスがかかり続け、徐々に断裂することで起こります。中〜高齢の大型犬に多いといわれていますが、小型犬でも発症するため、少しでも異常を感じたら早めに動物病院を受診するようにしましょう。

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