【犬の前十字靭帯断裂】手術しないとどうなる?歩ける場合の注意点と治療の考え方を解説
病院コラム 2026.05.26
「急に後ろ足をつかなくなった」
「歩けてはいるけれど、以前と歩き方が違う気がする」
「手術をすすめられたけれど、本当に必要なのだろうか」
愛犬の前十字靭帯断裂について、このようなお悩みを抱えている飼い主様も多いかと思います。犬の前十字靭帯断裂は、歩けている場合でも関節への負担が進行していることがあり、見た目だけでは重症度を判断しにくい病気です。
今回は、前十字靭帯断裂をそのままにするとどうなるのか、どのような症状に注意すべきなのか、そして手術や治療をどのように考えていくべきかについて解説します。

■目次
1.犬の前十字靭帯断裂は手術しないとどうなる?
2.歩けるなら大丈夫?見逃しやすい症状
3.どんな犬に起こりやすい?
4.動物病院でどう診断する?
5.保存療法と手術、それぞれどう考える?
6.特に早めに手術を検討したいサイン
7.ご自宅での注意点
8.よくある質問
9.まとめ|早期診断と適切な治療選択が大切
犬の前十字靭帯断裂は手術しないとどうなる?
まず結論として、前十字靭帯断裂を放置すると、膝関節への負担が続き、痛みや歩行異常が慢性化してしまう可能性があります。
前十字靭帯は、膝関節を安定させるために重要な役割を担っている靭帯です。この靭帯が切れてしまうと、膝が不安定な状態となり、関節の中で異常な動きが起こるようになります。
その結果、次のような問題につながることがあります。
・膝関節の不安定化
・痛みや歩きづらさの慢性化
・変形性関節症の進行
・半月板損傷
・反対側の足への負担増加
特に注意したいのが、関節炎の進行です。はじめは「少し歩き方がおかしい程度」に見えても、関節の中では炎症や摩耗が進行していることがあります。
さらに、痛みのある足をかばい続けることで反対側の足にも負担がかかり、もう片方の前十字靭帯まで断裂してしまうケースも少なくありません。実際に、片側の前十字靭帯が断裂した症例の50%は、その後反対側も断裂するといわれています。
そのため「歩けているから様子を見よう」と判断してしまう前に、まずは現在どの程度関節に負担がかかっているのかを確認することが大切です。
歩けるなら大丈夫?見逃しやすい症状
前十字靭帯断裂を起こしても、すぐに歩けなくなるとは限りません。そのため、初期段階では見逃されてしまうケースも多く見られます。
<完全に足を上げてしまう>
前十字靭帯が完全に断裂すると、後ろ足を地面につけられなくなり、足を上げたまま歩こうとすることがあります。突然足をつかなくなった場合は、強い痛みや関節の不安定化が起きている可能性があります。
<歩けているけれど体重をかけきれていない>
一方で、部分的な断裂では、歩けているように見えることもあります。ただし、よく見ると次のような変化が見られます。
・後ろ足を引きずるように歩く
・後ろ足をかばって歩く
・歩幅が狭くなっている
・運動後に症状が悪化する
こうした変化は「少し足を気にしているだけかな」と思われることもありますが、実際には関節への負担や痛みが続いている可能性があります。
<座り方に左右差がある>
前十字靭帯断裂では、座り方に変化が出ることもあります。例えば、断裂した側の後ろ足を横に投げ出すように座ったり、左右非対称な座り方をしたりするケースがあります。
犬は痛みを我慢しやすい動物です。そのため、鳴いたり動けなくなったりしていなくても、関節には大きな負担がかかっていることがあります。特に部分断裂の場合は、見た目の症状が軽く見えても、時間をかけて徐々に悪化してしまうことも少なくありません。
「まだ歩けているから大丈夫かな」と感じる場合でも、気になる様子があれば、一度動物病院に相談することをおすすめします。
どんな犬に起こりやすい?
前十字靭帯断裂は大型犬に多いイメージを持たれることがありますが、実際には小型犬でもよく見られる病気です。また、犬種や年齢に関わらず、犬は前十字靭帯が切れやすい動物だと考えられています。
その中でも、特に次のような要因がある場合は注意が必要です。
・肥満
体重が増えると膝への負担が大きくなり、靭帯へのストレスも強くなります。
・膝蓋骨脱臼(パテラ)
膝蓋骨脱臼があると膝関節のバランスが崩れ、前十字靭帯に継続的な負荷がかかりやすくなります。
・滑りやすい床環境
フローリングなどで足を滑らせる動きが繰り返されると、膝関節に負担が蓄積しやすくなります。
・基礎疾患
甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症、糖尿病などがある場合、靭帯が弱くなり発症しやすくなることがあります。
・加齢による靭帯の変性
犬の前十字靭帯断裂の多くは、急なケガではなく、加齢に伴って靭帯が徐々に弱くなることで起こります。そのため、特別な事故や激しい運動がなくても発症することがあります。
動物病院でどう診断する?
前十字靭帯断裂では、膝蓋骨脱臼や股関節形成不全、馬尾症候群など、他の整形疾患が関係していることもあるため、状態を正確に把握することが大切です。
動物病院では、問診や触診に加え、次のような検査を組み合わせて診断していきます。
・歩様検査:歩き方や座り方を確認し、足をかばい方や左右差を評価
・整形外科的検査:膝関節の動きを確認し、関節の不安定性がないかを調べる
・レントゲン検査:関節のズレや関節炎の進行、関節液の貯留などを確認
痛みや緊張によって正確な評価が難しい場合には、状態をしっかり確認するために、必要に応じて鎮静を行うこともあります。
保存療法と手術、それぞれどう考える?
前十字靭帯断裂の治療では、保存療法と手術という選択肢があります。
<保存療法が検討されるケース>
保存療法では、安静管理や体重管理、痛みのコントロールなどを行いながら、関節への負担をできるだけ減らしていきます。
例えば、次のようなケースでは保存療法を検討することがあります。
・高齢などで麻酔リスクが高い
・重い基礎疾患がある
ただし、保存療法は膝関節そのものを安定化させる治療ではありません。そのため、関節炎の進行や症状の悪化が起こります。
<手術が勧められるケース>
「歩けている=手術が不要」というわけではなく、歩けていても関節に強い負担がかかっていることがあります。前十字靭帯断裂では、何らかの基礎疾患がある場合などを除き、基本治療は手術による膝関節の安定化です。
特に、次のような場合には手術が勧められることが多くなります。
・足をしっかりつけない
・足を引きずる
・関節の不安定性が強い
・症状が悪化している
・半月板損傷が疑われる
なお、当院の前十字靭帯断裂の手術では、主に「TPLO(脛骨高平部水平骨切り術)」を採用しています。
犬の前十字靭帯断裂の詳しい治療法や術式についてはこちらで詳しく解説しています
特に早めに手術を検討したいサイン
歩けている場合「まだ手術しなくても大丈夫なのでは」と迷われる飼い主様もいらっしゃるかもしれません。しかし、関節に負担がかかり続けることで、将来的に状態が悪化してしまうケースもあります。
早めの手術を検討したいサインとしては、次のようなものが挙げられます。
・まったく足をつけない
完全断裂などによって膝の安定性が大きく失われている可能性があります。
・症状が長引いている
歩き方の異常が長期間続く場合、関節炎が進行していることがあります。
・悪化を繰り返している
「良くなったり悪くなったり」を繰り返している場合も、部分断裂が進行している可能性があります。
・反対側にも負担が出ている
片側をかばい続けることで、もう片方の膝にも負担がかかっていることがあります。
前十字靭帯断裂では、痛みを我慢しながら生活しているケースも少なくありません。愛犬が一日でも早く快適な生活を取り戻せるように、その子に合った治療方法を検討していくことが大切です。
ご自宅での注意点
前十字靭帯断裂では、日常生活の中で膝への負担をできるだけ減らすことが大切です。ご自宅では、次のような点に注意しながら過ごしましょう。
・安静を意識した生活を心がける
急性期には、無理な運動を避けて安静に過ごすことが大切です。自由に動き回れる状態が続くと、関節への負担が強くなり、症状が悪化してしまうこともあります。必要に応じて、行動範囲を制限しながら過ごしましょう。
・滑りにくい環境を整える
フローリングは足を滑らせやすく、膝への負担につながります。マットを敷く、足裏の毛をこまめに整えるなど、滑りにくい環境づくりを意識しましょう。
・体重を増やしすぎない
肥満は膝への負担を大きくするため、体重管理も重要です。特に運動量が落ちる時期は体重が増えやすいため、食事量にも注意が必要です。
・無理な運動を避ける
急なダッシュやジャンプ、激しい運動は、膝への負担を強める原因になります。症状が落ち着くまでは、無理をさせないように注意しましょう。
よくある質問
Q. 自然治癒しますか?
部分断裂の段階では、一時的に症状が軽くなることがあります。
しかし、前十字靭帯そのものが元通りに修復されるわけではなく、時間とともに悪化するケースも少なくありません。
Q. 安静にしていれば治りますか?
安静によって痛みが落ち着くことはあります。
ただし、膝関節の不安定性そのものが改善するわけではなく、状態によっては、関節炎や半月板損傷が進行してしまうこともあります。
Q. 入院期間はどれくらいですか?
状態や術式によって異なりますが、当院では3〜5日程度の入院となるケースが多くなっています。
Q. 小型犬でも手術は必要ですか?
小型犬でも前十字靭帯断裂は起こります。
また、体が小さいから軽症とは限らず、症状や関節の状態によっては手術が必要になることがあります。
まとめ|早期診断と適切な治療選択が大切
犬の前十字靭帯断裂は、歩けている場合でも関節への負担や炎症が進行していることがあります。また、放置することによって関節炎や半月板損傷が進行し、反対側の足にも負担がかかってしまうケースも少なくありません。そのため、早い段階で現在の状態を確認することが大切です。
当院では、歩き方や関節の状態を丁寧に確認し、その子に合った治療方法をご提案しています。「手術が必要なのか迷っている」「まずは状態だけ確認したい」という場合でも構いません。気になる歩き方が続く場合は、どうぞお気軽にご相談ください。
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