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犬の胆嚢粘液嚢腫について┃初期にはほとんど症状がないため、定期的な健康診断が重要

病院コラム 2024.04.23

胆嚢(たんのう)は肝臓の下側に位置する洋ナシ形の器官で、肝臓でつくられた胆汁(たんじゅう)と呼ばれる消化液を蓄え、必要に応じて消化管に輸送する役割を担っています。胆汁は栄養の消化吸収にとって大事な役割を持っており、脂肪を細かく分解し吸収を助けたり、コレステロールやビリルビンなどの排泄を担っています。

胆嚢粘液嚢腫とは、本来はサラサラな液体である胆汁が、様々な原因で粘液性の物質(ムチン)と混ざり胆嚢内に貯留した結果、ゼリー状に固くなり、結果的に流出路閉塞を起こしてしまう病気です。初期では基礎疾患の治療や食事管理などで緩和できることもありますが、悪化すると胆嚢が破裂してしまい、死に至ってしまう危険性もあります。なお、猫での発生はなく、犬特有の病気です。

今回は犬の胆嚢粘液嚢腫について、原因や症状とともに、当院での治療法(特に腹腔鏡を用いた手術)について詳しくご紹介します。

■目次
1.原因
2.症状
3.診断
4.治療
5.予防法やご家庭での注意点
6.まとめ

 

原因


胆嚢粘液嚢腫の原因はよくわかっていませんが、以下の基礎疾患と発症リスクには関連があると考えられています。

副腎皮質機能亢進症
甲状腺機能低下症
高脂血症

また、特にシェットランド・シープドッグやコッカー・スパニエルは発症しやすい犬種であるといわれていますが、どの犬種にも起こりますし、小型犬での発症が多いです。

これらの基礎疾患や品種だけでなく、生活環境などの要素も複雑に組み合わさっていると考えられます。

 

症状


胆嚢内の粘液が増えていくと、胆汁をうまく排泄することができなくなり、病態の悪化につながります。
この病気自体は基本的に無症状ですが、粘液が流れでた際に胆道閉塞を起こすと嘔吐、下痢、食欲低下といった症状が見られます。また、胆嚢が壊死してしまい破裂することもあります。

さらには、慢性的な胆汁鬱滞により肝酵素の上昇や胆管肝炎を起こし、肝臓にも障害を起こす可能性があります。

 

診断


胆嚢粘液嚢腫の診断には、腹部の超音波検査が不可欠です。「キウイフルーツ様」と呼ばれるような特徴的な像が有名ですが、それ以外にも色々な形で観察されます。


胆嚢粘液嚢腫のエコー写真

血液検査では、肝酵素(ALT、AST、ALP、GGT)やコレステロールが上昇します。胆道閉塞を起こしている場合はビリルビンやCRPも上昇します。

また上述のように、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)や甲状腺機能低下症などが原因になる場合もあるので、これらの病気がないかを事前に確かめることも重要になります。

 

治療


治療には、内科療法と外科療法(手術)の2つの選択肢があります。

内科療法
利胆剤や基礎疾患のお薬、低脂肪食および頻回食が有用と考えられていますが、内科療法だけでの完治は難しいケースがほとんどです。

外科療法
胆嚢を温存することは不可能なため、胆嚢摘出術を行います。胆道閉塞や破裂している場合には緊急手術を行うこともあります

閉塞する前に予防的な胆嚢摘出術を行う場合には、腹腔鏡による手術も実施しています。腹腔鏡手術は一般的な開腹手術と比べて、下記のようなメリットがあります。

傷口が小さいため術後の痛みが少ない
拡大した視野で手術が可能
術後の癒着が少ない

胆嚢摘出術による術後の合併症として胆嚢摘出後症候群や膵炎、腹膜炎などが挙げられますが、開腹手術と腹腔鏡手術での優位な差は認められていません。
動物の状態や合併症なども考慮した上で治療方針を決定しています。

また、腹腔鏡による手術は専門的な知識や経験、専用の機器が必要になりますが、当院では日本獣医内視鏡外科研究会に所属している獣医師がおり、腹腔鏡手術を多数経験しているため、安心してご利用ください。
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◼️腹腔鏡下による手術についてはこちらで詳しく解説しています
内視鏡外科手術

 

予防法やご家庭での注意点


発症を予防することは難しい病気ですが、閉塞して胆嚢が破裂してしまう前に、予防的に手術をする選択肢もあります。その際は腹腔鏡でも実施できますので、ご不安に思われる飼い主様はお気軽にご相談ください。

 

まとめ


胆嚢粘液嚢腫は、初期には症状として現れませんが、胆嚢が破裂してしまうと命に関わるため、そうなる前に検査で見つけ出すことが重要です。見た目から判断することは難しいので、定期的に健康診断を行って胆嚢の状態をチェックしましょう。

 

※初めて受診される方は事前に問診票を記載の上ご来院ください
問診票のダウンロードはこちらから

 

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